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エリザベス洋装店のブログ

植物はなぜ薬を作るのか8by斉藤和季

植物は私たち動物とは違って、素早く動くことや移動することができません。しかし。46億年の地球の歴史の中で、陸上植物は5億年を生きてきています。私たち人間の遠い祖先(ヒト族ホモ属)が200年前に誕生し、私たちと同じ種であるホモサピエンスが誕生したのが40万~25万年前とすれば、陸上植物には私たち人間の約1000~2000倍も長い生命の歴史があります。陸上職物の祖先とされる藻類の歴史はもっと古く、30億年前から生存していたと考えられるので、より長い進化の道筋をたどって生きてきたといえます。植物はこのような長い歴史を生き抜くために戦略を立て、実行して、トライアルアンドエラーをくりかえしながら、進化する必要がありました。特に、植物が、土に根を生やして移動しないという基本的な生き方を選択した段階で、動くことができる動物とは異なった生存戦略が必要だったのです。生命が持つべき属性として、動物、植物を問わず生命が持つ属性、すなわち生命体に共通して備わっている性質や特徴とは何かを考えてみましょう。生命の定義やもつべき属性といってもその論議はそう簡単なものではありません。しかし、共通の理解としては1、自らの生存と成長のために物質代謝、エネルギー代謝ができること2、自らを複製して次世代に受け継ぐことが挙げられます。この二つの属性を有し、生命として成り立つために<動かない>という選択をした植物独自の生存戦略を発達させました。それが結果的に植物が多くの薬を私たち人間にもたらすことにつながったのです。ここでは、薬のもとになる植物の作る化学成分(代謝の結果できる物質ですので<代謝産物>とも呼ばれます)の観点から植物が独自に発達させた三つの生存戦略を見ていくことにしましょう。その三つとは次に述べる、同化代謝戦略を見ていくことにしましょう。その三つとは次に述べる、同化代謝戦略科学防衛戦略、繁殖戦略です。

植物はなぜ薬を作るのか7by斉藤和季

こうして植物などの天然物は薬として経験的に用いられてきたのですが、時代が下るにつれ、その知識が体系化されていきます。生薬(しょうやく)というのは、天然ものに由来する素材を生成せずに用いる薬のことです。たくさんの物質が混ざった混合成分から、単一の成分だけを取り出す作業を精製というのですが、生薬はこの精製作業をせずに、たくさんの成分がまじりあったままで薬として使います。植物、動物、鉱物などが生薬の天然素材として用いられますが、植物由来のものがその多くを占めます。このようにいわゆる<草根木皮>を素材とすることが多いため、生薬を”木薬”とみなして<キグスリ>と呼ぶこともあります。植物、動物、鉱物などの天然素材を新鮮なまま使うこともありますが、多くの場合いは乾燥させたり、抽出や蒸留などの簡単な操作を加えて薬として流通させています。医薬品は厚生労働大臣が定めた医薬品の規格基準書である<日本薬局方>という公定書によってその規格が定められています。生薬も<日本薬局方>によって規定されており、<動植物の薬用とする部分細胞内容物、分泌物、抽出物、または鉱物など>と定められています。<日本薬局方>はいわば薬の法律のようなもので、厳密な規定が可能な生薬だけを記載していますが、実際の市場や製剤の現場では、これに収載されていない生薬も多く使われています。<日本薬局方>に記載されている生薬類は約300種ですが、市場ではおそらくその倍以上の生薬が使われています。生薬はこのように植物、動物、鉱物由来の素材を生成して、単一の化学成分にすることなく、そのまま使用する点に特徴があります。したがって、英語では生薬を”crude drug"(クルードドラッグ;精製していない医薬品)といいます。よく知られている生薬の例としては甘草(かんぞう)、桂皮(けいひ)、大黄(だいおう)、麻黄(まおう)、人参(にんじん)などがあります。生薬でいう人参は、いわゆる薬用ニンジン(一般には高麗ニンジン、朝鮮人参とも呼ばれます)のことで、野菜のことではありません。

植物はなぜ薬を作るのか6by斉藤和季

チンパンジーが薬として植物を使っていたくらいですから、人類が早い段階から植物を薬として用いてきたとしても意外ではないでしょう。紀元前4000~3000年ごろにさかのぼるメソポタミアの粘土板(タブレット)には、きっけい文字による病気や医薬の記載があります。古代のエジプト、中国、インドでも同様に薬に関する記述が見つかっています。古代では病気を治療する神秘的な力が薬草にはあると考えられ、薬草にはむしろ呪術に近い使い方をされていました。確かに脳神経系に作用し幻覚作用を示す成分を含む植物があるので、こうした薬草を古代人は呪術に用いたのでしょう。これらの薬となる植物の発見は、いわゆるセレンディピティ(偶然の所産)と言われるものです。つまりチンパンジーであっても人間であっても、たくさんの植物をかじったり、食べたりする試行錯誤の中で、偶然に薬効(薬となる効果)のある植物を探し当てたというわけです。その知識が伝承として伝えられてきました。

植物はなぜ薬を作るのか5by斉藤和季

人類は古くからさまざまな植物を薬として使ってきました。それぞれの植物には病気を治したり、体の調子を整えたりする化学成分があることを経験から学んできました。人類がその誕生と同時に身近な植物を薬として用いてきたことに疑いはありません。チンパンジーなどの霊長類ですら、植物を薬として使っているという証拠があります。アフリカでチンパンジーの生態観察をおこなっている研究チームの報告によると、あきらかに病気と判定されたチンパンジーが、普段は口にしない苦味の強いキク科の植物の髄液(茎から染み出た液)を飲み、約1時間後に体調が回復することが観察されたというのです。そこで、別の研究者がこの植物の化学成分を調べたところ、セヌキテルペンラクトン類とステロイドグルコシド類という特徴的な化合物が見つかりました。そしてこれらの化合物には、寄生虫の産卵を抑制する作用のあることがわかりました。つまり、チンパンジーはこの植物を食料としてではなく、薬として寄生虫の駆除に使っていたというわけです。

植物はなぜ薬を作るのか4by斉藤和季

<甘草>(かんぞう)という生薬の名前を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。甘草は文字通り、その根に非常に強い甘味を持つ生薬です。漢方薬の複数の生薬を組み合わせて配合しますが、甘草やそのような漢方薬の7割に配合されており、最も汎用されています。この強い甘味(砂糖の30~150倍)は甘草に含まれる<グリチルリチン>という低カロリー甘味成分によるものです。グリチルリチンは医薬品だけでなく、多くの食品に天然甘味料としてふくまれており、ほとんどのかたはまいにち必ず少しは口にしているはずです。しかし、この甘草の供給はほとんど中国からの輸入に依存しており、最近の中国国内での需要の高まりや生産地域の砂漠化への危惧によって輸入制限が始まっています。甘草の供給不安が深刻化する中で、私たちは甘草のゲノム情報を用いて、グリチルリチンを作る遺伝子を探し出し、バイオテクノロジーの力によってグリチルリチンなどの甘草の有効成分を作る研究を行ってきました。そのようにして探し出した遺伝子を使ってグリチルリチン酸というグリチルリチンの一歩手前までの成分を人工的に酵母で作ることに成功しました。またごく最近甘草の全ゲノム配列を決定することにも成功し、この最も重要な生薬の全貌を明らかにする見通しが立ちました。生薬とか漢方薬の研究といいますと、<独特のにおい>とか、、根っこの味がする>など、とかく古めかしく辛気臭い印象の強い分野ですが、ゲノム科学の進展によって世界の最も先端的な科学になったのです。筆者は生薬や薬用植物成分について、その古めかしく陰気くさい場面から最先端のゲノム科学やバイノテクノロジーまでその変貌を現場の研究としてリアルタイムで見てきました。その中で、<植物からのメッセージを伝えなければ>という思いに強く駆られました。植物は、進化という厳粛な自然の審判に耐えながら、極めて巧みに設計され、洗練された方法で多様な化学成分を作るという機能を発達させてきたのです。私たち人間は、それを薬として少しだけお借りして使わせてもらっているだけにすぎません。