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エリザベス洋装店のブログ

ケストナーの<絶望>by 皇后美智子様

子供にも理解できるような、いくつかの詩もありました。カルルブッセ、フランシスジャム、ウイリアムブレイク、ロバートフロスト、、、。私がインドの詩人タゴールの名を知ったのも、この本の中ででした。<花の学校>という詩が選ばれていました。後年<新月>という詩集の中に、この詩を再び見出した時、どんなに嬉しかったことか。<花の学校>は、私をすぐに同じ詩人による<あかんぼの道>や<審(さば)く人>、<チャンパの花>へと導いていきました。ケストナーの<絶望>は、非常に悲しい詩でした。小さな男の子が汗ばんだ手に一マルクを握って、パンとベーコンを買いに小走りに走っています。ふと気づくと、手の中のお金がありません。街のショーウインドの灯がだんだんと消え、ほうぼうの店の戸が閉まり始めます。少年の両親は、一日の仕事の疲れの中で、子供の帰りを待っています。その子が家の前まで来て、壁に顔を向けじっと立っているのを知らずに。心配になった母親が探しに出て、子供を見つけます。いったいどこにいたの、と尋ねられ、子供は激しく泣き出します。<彼の苦しみは母の愛より大きかった。二人はしょんぼりと家に入っていった>という言葉で終わっています。この<世界名作選>には、この<絶望>のほかにも、ロシアのソログーブという作家の<身体検査>という悲しい物語が入っています。貧しい家の子供が学校で盗みの疑いをかけられ、ポケットや靴下、服の中まで調べられている最中に、別のところから盗難品が出てきて疑いが晴れたという物語で、この日帰宅したこどもからいちぶしじゅうをきいた母親が、<なにもいえないんだからね。おおきくなったら、こんなことどころじゃない。このよにはいろんなことがあるからね>と欺く言葉が付け加えられています。思い出すと、戦争中はとかく人々の志気を高めようと、勇ましい話が多かったように思うのですが、そうした中でこの文庫の編集者が、<絶望>やこの<身体検査>のような詩を、なぜここに選んで乗せたのか興味深いことです。生きている限り避けることのできない多くの悲しみに対し、ある時期から子供に備えさせなければいけない、という思いがあったのでしょうか。そしてお話の中のでんでんむしのように悲しみは誰もが背負っているのだということを、子供たちに知ってほしいという思いがあったのでしょうか。私は、この文庫の編集企画をした山本有三につき、二、三の小説や戯曲による以外詳しくは知らないのですが、<日本名作選>及び<世界名作選>を編集するに当たっては、子供に喜びも悲しみも、深くこれを味わってほしいという、有三とその協力者たちの強い願いがあったのではないかと感じられてなりません。