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エリザベス洋装店のブログ

仙境異聞 by 平田篤胤 4.

同じ年の四月ころ、寅吉が東叡山(上野寛永寺のある山)のふもとに遊びに行き、黒門前の五條天神界隈をぶらついていた時、年恰好は五十歳ぐらいで、髪が長く、総髪をくるりと櫛巻きのように結んだ旅装束の老人がいた。その老人は、口の直径が四寸ぐらいのこつぼから、丸薬を取り出して売っていた。やがて老人は商いを終えたと見え、前に並べてあったものを、小つづらから敷物まで、何もかもその小ツボの中にいとも簡単にしまいこんでしまった。それから老人自身もその小ツボの中に入ろうとしていた。寅吉は、どうやってこつぼなどの中に入ることができるのだろうと思い、じっと見ていると、老人は片足を踏み入れたと、見えたその瞬間、たちまち老人の身体全部がこと簿の中に吸い込まれてしまった。そしてそのツボは大空に舞いあがり、いずこともなく飛んで行った。寅吉には何がなんやら不思議でならなかった。それで寅吉は、後日また五條天神兵器、夕暮れまで老人の様子を見ていたが、この前と全く同じであった。その後また寅吉が五條天神へ行ってみると、老人のほうから寅吉に声をかけてきた。<お前もこのツボに入ってみないか。面白いものをいろいろ見せてやろう>何とも薄気味悪くて、寅吉は遠慮した。すると老人は、近くで売られていた菓子などをいろいろ買い与え、寅吉の関心を掻き立てるように誘ってきた。<お前は卜筮のことを知りたいんだろう。だったらこのツボに入ってわしと一緒においで、教えてあげるよ>常日頃から卜筮の術を知りたかった寅吉は老人にこう誘われると、そんなら行ってみようという気になってしまった。それからつぼにはいったように思うその間もなく、寅吉はとある山の頂にたどり着いていた。まだ日も暮れていなかった。その山は常陸(ひたち)国(茨城県)の南台丈(難台山)という山であった。いわゆる天狗の行場であるという。