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エリザベス洋装店のブログ

仙境異聞 by 平田篤胤 6.

またいつのことだったか、七軒町のあたりを、花の高い赤いお面をかぶり、袴をつけて太刀を刺した男が、<ワイワイ大王じゃ、ワイワイ大王じゃ>と唱えながら歩いていたことがあった。ワイワイ大王は、赤い紙に<大王>というに文字を刷った子札をまき散らし、周りに子供を集めては、囃し立てていた。<大王様は囃すがお好き、囃せや子供。わいわい囃せ。大王様は喧嘩が嫌い、けんかをするな、仲よく遊べ、囃しながら進むわいわい大王の行列が、寅吉には面白かった。寅吉も大勢の子供たちに交じって、一緒に囃しながらついていき、家から遠く離れてしまったことにも気が付かなかった。今思えば、本郷の先の妙技坂あたりまで行ったようであった。もうそのあたりは暗く、日も暮れていた。ほかの子供たちはみな帰って行った。寅吉のほかに誰もいなくなると、札を巻いていたワイワイ大王は、道の傍らに立ち止り、面をとった。見てみると寅吉をいつも連れて行く老人、その人であった。<今日も家まで送って行ってあげよう>老人はそう言って寅吉の手を取った。二人で連れたって家路についたが、茅場町榊原殿の表門の前あたりで、父親が寅吉を探しに出てきていたことが分かった。<お前の父が探しにやってきた。わしとのことは、決してしゃべってはならんぞ>老人はそっと寅吉に念を押し、寅吉の父親に行き会うと話しかけた。<探しているのはこの子ではないのかね。遠くで迷子になっていたから連れて来たんだが>父親は寅吉を引き取り、とても喜んで、老人に名前と住まいを訪ねた。老人はどこそこの何某だと、適当な名を告げて去っていった。翌日父親はその住まいを訪ねて、礼をしようとした。しかしもとより出まかせの住所であってみれば当然のこと、そこにそんな人はいなかったと、むなしく帰ってきた。