ニギハヤヒ by 戸矢学
初代天皇は神武天皇というのは日本人の常識である。そしてこのことは<古事記><日本書紀>の記述に基づいている。しかし実は神武天皇が初めてヤマトに到着したところ、すでにそこには統治者がいたと記紀に明記されているのだ。しかも賊衆の首長などではなく、神武と同じ<天神の子(あまつかみのこ)>であるという。その名をニギハヤヒという。ニギハヤヒは、天(あま)つ御霊(みしるし)を持っていた。つまり神宝であって、<アマテラスの保証>である。神武も天つ御靈を持っていた。だからこそ、唯一自らが統治者たる資格を持つはずと自負していた。それだけに、事実を知って驚いた。しかしそれならば先に大和を統治していたニギハヤヒにこそ権利があってよさそうなものなのに、ニギハヤヒは、なぜか神武に帰順する。記紀にはそう書かれている。何やら特別な事情が裏にありそうだと、皆が皆考えて何の不思議もないだろう。しかし記紀には何の説明もない。ヤマト統治者の地位を、神武は先輩のニギハヤヒから禅譲された。これによって”粗大天皇”として即位することになるのだが、この経緯はだれが見ても不自然であり不可解である。譲られた地位は、ニギハヤヒがついていた地位であるのだからニギハヤヒも天皇であったことになるし、もしそうでないなら、神武もゆずられた地位は天皇でないことになるのだ。その真相はなんなのかー誰もが知りたいことだろう。私もそう考えて、この探求は始まった。手がかりは記紀に匹敵する重要古典<先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)>(旧事紀(くじき>)である。